越前打刃物の蕎麦包丁

十割蕎麦
東京オリンピック関連。書いた時期の記録です
前回の投稿は阿倍兄妹らが金メダルを獲った日で、3個の金メダル、出足好調というような出だしでしたが、少し間が空きオリンピックも今日で9日目。8日までのメダル数は金17個、銀4個、銅7個という何とも素晴らしい結果になっています。毎日、テレビで観戦していますが、涙腺が緩くなり毎日ボロボロの状態。つい、投稿が鈍ってしまいました。オリンピックの醍醐味を毎日味わっていますが、そんな中でも特に印象的だったのが、昨日のフェンシングのエペ団体での初金メダル獲得です。主将は我が郷里出身の見延選手。チーム各選手ともに、本当にお見事でした。心からお祝いを申し上げます。
※ 見延選手には、12月11日福井県知事から、「県栄誉賞」が贈呈されました。職場からは報償金1億円が贈られる等、今後も期待されており、地元では大ヒーローです。(12月13日追加記事)
さて、今日はオリンピックの話ではなく、越前打刃物の話です。見延選手は今朝のテレビ出演中、司会者から「刃物を研ぐのが趣味とあるが、何故?」と聞かれた場面で、「郷里は越前打刃物の産地、研いでいると悠久の打刃物の歴史や職人の魂が感じられ無心になれる、刃物を研ぐことは精神を集中させるのに最高、それ専用の包丁がある。」という内容の解説をしていました。コメントも金メダルでしたが、名品として日本はもとより世界にも進出している越前打刃物の中の、蕎麦包丁の話を書きます。

越前打ち刃物の歴史

14世紀前半の南北朝時代初期に、京都の刀匠・千代鶴国安が刀作りの適地を求め現在の越前市に移り住み、刀作りの傍ら近隣農民のための鎌を作ったのが始まりとされ、700年の歴史があります。江戸時代時には、株仲間と言われる、藩から同業者組合の許可を受けたり、漆かき職人が越前の鎌を携えて漆を求め全国を巡っていた折、打刃物類を売ったり注文を取ったりして販路を拡大し、明治時代になると越前の鎌は全国シェアの3割近く包丁も約2.5割を占めるようになりました。越前打刃物は、古来の技法を守り、主に調理用の包丁、鎌、鉈、刈込み鋏等を制作しています。最近はお洒落な作品もあります。
古来の技法とは、「廻し鋼着け(鎌、刈込み鋏)」のことで越前打刃物の創始者千代鶴国安が考案したと伝えられる鋼着けの方法です。越前打刃物の鋼着けの鋼の置き方は、「柾置法」と呼ばれるもので、全国の産地で一般的に行われている「平置法」と異なる手法です。「柾置法」とは、地鉄と鋼を鍛接した後、鋼の片隅から全体を菱形につぶす技法で、鋼がより薄く出来るので研ぎ易い良い刃を付けることが出来る、とされていますが、鍛造技術に相当の熟練を要すものとされ、出来た製品は「平置法」と比べ、はるかに優秀です。又、2枚広げという技法も特徴です。包丁製造の際、鋼を2枚重ねたまま裏と表からベルトハンマーで打ち、2枚が同様に薄く延びるよう手早く作業する技法のことで、2枚重ねで厚みが倍になることでベルトハンマーの圧縮力が強くなり、製品の板ムラが少なくなるという利点があります。~越前打刃物協同組合HP引用~

越前おろし蕎麦と包丁

越前打刃物は主に、農業や林業用の鎌や鉈等で成長してきたのですが、越前おろし蕎麦の歴史も深いものがあります。
室町時代中期の武将朝倉孝景(朝倉氏第7代当主)が、合戦や飢饉に備えるために蕎麦作りを奨励したとされ、当時は「蕎麦がき」として食されていましたが、江戸時代になり、初代福井藩(結城秀康)の家老であった本多富正(元徳川家家臣)が、1601年に府中(現在の越前市)の城主になった時、随行の蕎麦師金子権左衛門を通じて蕎麦麺に大根おろしをかけて食す方法を奨励させ、以降、越前地方の蕎麦の食べ方の定番となった、という歴史があります。蕎麦が麺として食されたのは、江戸時代の江戸町(現在の東京)だったことは定説ですが、江戸から越前に赴任した本多富正が広めたという説も腑に落ちる話です。~福井「越前・若狭」の旅情報 ふくいドットコムHP引用~
私見ですが、おろし蕎麦を福井に広めた本多富正の時代には、越前打刃物は藩から許されていた「株仲間」の刃物でしたので、蕎麦を切るための包丁もこの時代から専用化していったと推測されます。この歴史があったればこそ、数ある蕎麦包丁の中でも、近年、特に切れ味や使い勝手が良く名品とされる、越前打刃物の蕎麦包丁があるのだと思います。
私も2丁、知り合いの刃物業者から購入し、1丁は蕎麦打ちを始めるという東京から福井に赴任されていた方に差し上げ、もう1丁は自分で使っています。蕎麦打ち名人が使うような、墨流し入りの日立金属安来工場の青シリーズや武生製鋼のV金シリーズの鋼ではなく、普通の本鍛造の蕎麦包丁ですが、適度な重さがあり包丁の重さで麺切りをするタイプの包丁です。使い比べるという程の知識はありませんが、使い続けて手に合ってくるものだと思っています。

包丁の値段

合羽橋の超有名店で売っている包丁も、銘を入れる前に買い付けされ、銘を入れて販売する、という話を聞いたことがあります。日本酒の樽買いのような話ですが、品質は良いのに知名度が無く売れない、という場合の手段なのかと思います。値段自慢をしないのであれば、銘が無くても使い易い包丁でも良いのでは、と思います。私が地元で買った包丁は、20年も前ですから今よりもズーと安く1万円程度でした。今では、それほど安くはありませんが、数万円から鋼が良いと十数万円という値段が付いています。
歴史と伝統、そして技術が注込まれた越前打刃物。ご興味がお有りのお方は、是非、ホームページでご確認をお願いします。所有すれば、別に研ぐ訳ではありませんが、オリンピック金メダリストの見延選手の境地が分かり、金メダル級の蕎麦が打てるかもしれません。
見延選手にあやかって蕎麦包丁を大事にし、蕎麦道に精進したいと思います。

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