石臼挽き
蕎麦粉は、10年来のお付き合いがある専業農家さんから分けていただいています。農業を営まれている傍ら、ご自身で蕎麦道場を主宰されてお仲間と共にボランティアで蕎麦打ちに出向いておられます。令和2年度「緑白綬有功章」を受賞されました。大きな農作業小屋を改造して蕎麦道場にしてあり、打ち台が数台設置してある蕎麦打ち部屋と、十二畳位の粉挽き部屋があります。粉挽き部屋には、蕎麦殻を抜く脱穀機と、機械式の石臼が3基あり、石臼は、直径約80センチのものが1基、常時稼働している直径約60センチのものが2基あります。目立て等の石臼の管理も仲間内でしているとのことです。
石臼の素材は、福井県美山町(現福井市:バレーボールオリンピアンの清水邦広さんの出身地です。)小和清水の山で採掘される花こう質の砂岩(小和清水石)で、硬く細かく欠けにくい、という性質の石で、福井の在来種の玄蕎麦を挽くのに最適な特徴があるそうです。産地としては後継者がいなくなり、今では貴重な石臼になっています。一番大きな石臼は質も良く、100万円近い値段だとか。
私も自作の小さい電動式の石臼を持っていますが、作ってから15年位自宅の小屋に置いてあるだけになっています。少し、時間が出来たので、ゆっくりと目立てからやり直して、自分流の粉を挽くつもりでいます。
手打ち
味を求めるのなら手打ちに拘りたいと言いたいところですが、手打ちは楽しい、に尽きます。粉が麺になる行程を毎回、阿保みたいに繰り返し不思議に感じながら打っています。蕎麦打ちは水回しが命。一滴とは言いませんが、5㏄でも仕上がりが変わります。特に、粉のしっとり具合、その時の湿度、部屋の温度、水回しのスピード等で、加水率は微妙に変化します。複数の人が、同じ粉を同じ場所で同じように打っても同じ味にはならないと思います。掌の温もりとか、力加減で仕上がりが変わります。加齢して手が冷たくなって上手く打てるようになったとも感じています。蕎麦打ちは、水回し、捏ね、延し、たたみ、切りの行程ですが、水回しが上手くいけば、捏ねた後の延しが上手くいく、延しが上手くいくと切りも上手くいく、という具合で、全部の行程が繋がっています。
細麵か太麺か
打ち方で、細くも太くもできますが、茹でるときの火力に違いがあると思います。どうしても太麺は強い火力が必要です。昔の蕎麦屋さんは、大きな竈で薪を焚き、蕎麦釜の中がグツグツと泡が盛り上がるような十分な火力で、麺を茹でていました。
家庭用のコンロやIHでは、太麺を短時間で茹で上げる火力がありません。火力が足りないと茹でるというより煮るような茹で方になり、美味しい蕎麦にはならないと思います。
細麺だと、家庭用の火力でも短時間で茹で上げることが出来ます。細麺は、家庭でも美味しい蕎麦を楽しめる形なのだと思います。まぁ、程度はありますが。結論は、家庭用の火力では細麺が良い、ということです。
十割に拘る
蕎麦を打っていると、色々と知り合いが出来ます。その一人に、同じく専業農家の人で自宅の小屋で時折、蕎麦会をしている御仁がいます。蕎麦農家であり、東京の有名店に蕎麦粉を卸している人ですが、この人が、十割以外は蕎麦ではない、と言い切る程拘りのある人です。「どん百姓○○」という名詞を使い、生粋の蕎麦農家をアピールしています。
実家の近くに明治4年創業の老舗蕎麦屋がありますが、私が子供の頃は割りばしのような太さの麺で、硬い感触のあるおろし蕎麦だったことを記憶しています。そんな老舗でも時代の波、細くて綺麗な麵を出しておられます。勿論、十割の蕎麦もあります。
私の打つ麺も最近では、食べて貰える人の好みに合わせて、随分、細くなりました。しかし、実は、十割を思い切り太く打って噛んで楽しみたい、という願望があります。残念ながら毎回、2キロ打ちなので、食べきれないような量になるため、叶わない夢に終わっています。同好の人を集めたいと思います。
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